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MRJにはどのくらい国から補助金が投入されてるか調査してみた

名古屋の北、県営名古屋空港のとなりでは三菱航空機(三菱重工の子会社)によってMRJ (Mitsubishi Regional Jet)の開発が進められいる。地元で開発されている航空機にどのように自分たちの税金が使われているのかについて興味があった。

MRJには日本政府からその開発に対し多額の助成金、補助金が出ている。その額は果たしていくらになるのだろうか?Googleですこし調べてみたけれど、具体的にいくら補助が出ているかまとまった記事がなかった(1)(2)ので、自分で調べてみることにした。数時間調べてみると、経済産業省および新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から補助金が出ていることがわかった。

経済産業省およびNEDOのWebsiteから得られた情報を元に、補助金・助成金額をまとめてみた。補助金・助成金はいくつかの分野に対して数年間に渡って投入されており、スキームがやや複雑である。大まかには、「先進空力設計等研究開発」および「炭素繊維複合材成形技術開発」が経済産業省からNEDOを通して投入されているようだ。「先進操縦システム等研究開発」はやや趣が違い、経済産業省からお金が出ている基金に対して国からお金が出ているようだ。

先進空力設計等研究開発

下記の資料によると、この名目では空力の技術開発および、開発・生産プロセスについてお金が出ている。2008年から2015年まで続いており、全体で投入された国からの補助金・助成金は205億円程度である。先程紹介した記事によるとMRJへの助成金は全部で500億円程度という話なので、この助成金が全体の4割程度を占めている。

第1 回先進空力設計等研究開発プロジェクト(航空機関連)終了時評価検討会
第2回先進空力設計等研究開発プロジェクト(航空機関連)終了時評価検討会

西暦 執行額 当初予算
2008 2,218[1] 4,100[1]
2009 1,882[1][2] 4,100[1][2]
2010 3,371[2] 3,330[2]
2011 4,059[2] 3,330[2]
2012 2,640[3] 3,330[3]
2013 3,330[3] 1,050[3]
2014 2,040[3] 990[3]
2015 950[4] 950[4]
合計額 20,490 21,180

(単位:百万円)

炭素繊維複合材成形技術開発

炭素繊維複合材を用いた技術開発についてお金が出ている。下記の資料によれば、VaRTMと呼ばれる新しい複合材の構造部材の作り方および、従来のプリプレグを用いた方法の高度化を行ったとのこと。2008年から2014年まで補助が続いており、全体で86億円投入されている。

炭素繊維複合材関係技術開発事業評価検討会(第1回)-配付資料

一方で、MRJは主翼の材料として複合材を用いるのを諦めた経緯があり、助成金を一部返却している(3)。この返却された予算がこの中に含まれるのかは定かではない。

西暦 執行額 当初予算
2008 1,941[5] 3,510[5]
2009 643[5] 6,776[5]
2010 1,944[6] 1,462[6]
2011 1,638[6] 1,158[6]
2012 1,062[6] 1,158[6]
2013 1,254[7] 54[7]
2014 118[7] 64[7]
合計額 8,600 14,182

(単位:百万円)

先進操縦システム等研究開発

この補助金は、下記資料によれば、航空機のコックピットおよび操縦桿などの操縦システムに対して補助金が出ている。この補助金は上記2つの補助金とはお金の投入されかたが異なるらしく、その総額が非常に調べづらかった。一応調べた中では合計額が147億円であったが、2009年以前はどの程度の額だったのかが分かる資料が存在しなかった。経済産業省に問い合わせてみればわかるのだろうか。

2008年と2009年に関しては予算の合計額が155億円であった。上記の執行額と合計すると302億円となり、MRJに対する補助金の約6割を占めることとなる。

第1回「先進操縦システム等研究開発」(事後評価)分科会
平成22年度「先進操縦システム等研究開発」の中間評価報告書
第1回「先進操縦システム等研究開発」(中間評価)分科会
基盤技術促進事業 事業プロジェクト概要

西暦 執行額 予算額
2008 5,000[11]
2009 10,500[12]
2010 8,663[9]
2011 4,784[9]
2012 673[9]
2013 580[9]
合計額 14700 15500

(単位:百万円)

航空機用先進システム基盤技術開発事業

航空機の故障検知および故障予知について補助金が出ている。この補助金は上記の補助金に比べると額が少なく、2.9億円のみとなっている。額が少ないのは調べたりないだけかもしれない。

西暦 執行額
2011 292[8][11]

環境適応型高性能小型研究開発

いままで上記に書いてきたような各種の補助金・助成金の以前に行われていたもの。下記資料を見る限り、内容は上記に書いた内容と地続きではあるが、このときはこの補助金でひとまとまりにされていた。予想するに、この補助金が発展的に上記の補助金となったのだろう。

第1回「環境適応型高性能小型航空機研究開発」(中間評価)分科会 
第2回「環境適応型高性能小型航空機研究開発」(平成18年度中間評価)分科会

西暦 執行額
2006 500[14]
2007 1,330[14]

まとめ

なかなか調べきれない部分があるものの、すべてを合わせると614億円になった。たぶんこの中には重複が含まれるため、実際には500億円から600億円の間なのだろうと思う。もしMRJの開発が失敗したら、果たしてこの税金の使いみちは適切だったのか議論されそうな巨額だ。

参考資料

1. “…政府も技術開発に数百億円の補助金…” (社説)国産機MRJ 開発体制を立て直せ 朝日新聞
2. “…機体開発費約1500億円の3分の1弱を国費で補助している国策…” 初の国産ジェットMRJ相次ぐ開発延期、なぜプロジェクト迷走?国の審査、海外との調整… livedoor news
3. 三菱航空機、MRJへの助成金返納 先端素材使わず 日本経済新聞

参考文献

1. 平成20年行政事業レビューシート(経済産業省) 事業番号 0119
2. 平成24年行政事業レビューシート(経済産業省) 事業番号 0080
3. 平成27年行政事業レビューシート(経済産業省) 事業番号 0055
4. 平成28年行政事業レビューシート(経済産業省) 事業番号 0044
5. 平成20年行政事業レビューシート(経済産業省) 事業番号 0521
6. 平成25年行政事業レビューシート(経済産業省) 事業番号 0400
7. 平成27年行政事業レビューシート(経済産業省) 事業番号 0332
8. 平成22年行政事業レビューシート(経済産業省) 事業番号 0295
9. 平成25年基金シート(経済産業省) 034
10. 平成26年基金シート(経済産業省) 062
11. 平成22年行政事業レビューシート(経済産業省) 事業番号 0257
12. イノベーションプログラムについて 平成20年5月16日 経済産業省 研究開発課
13. イノベーションプログラムについて 平成21年4月27日 経済産業省 研究開発課
14. 産業構造審議会航空機宇宙産業分科会航空機委員会(第10回)議事要旨 経済産業省
15. 炭素繊維複合材耐雷技術開発の概要について 平成21年10月26日 三菱航空機株式会社